いつからそうだったのか、己自身もわからない。 ただ、意識したのはあの時だろう。 千鶴が俺の吸血衝動を抑えるために自らの血を差し出した、あの時。 葛藤がなかったわけではないが、それ以上に健気さに胸を打たれた。 真摯な眼差しに。気遣う手から伝わる真心に。 自覚したのは、二度目の時か。 耳朶に口づけて血を啜った、あの時。 思いがけない甘さに目眩がした。 柔らかな感触に。仄かな温もりに。 離れがたく感じて、忘我してしまった。 それから幾度も、千鶴は俺が発作を起こす度に迷いなく血を与えてくれた。 支えてくれた。傍にいた。 守るべき、大切なものはいつの間にか増えてしまっていた。 言葉になどできなかったのに、それでも千鶴は俺を選んだ。 そのことにどれほど感謝すればいいのだろうか。 きっとやはり、言葉になどできないのだろう。 だから視線を交わし、唇を触れ合わせた。 全ては千鶴への想い故。 深すぎる想いを言葉にできない俺だから。 言葉の代わりに行動で全てを伝えたかった。 君が好きだと。 伝わっただろうか。