「風邪ひくよ」 泣いているのかも知れなかった。 華奢な肩を震わせて、俯いた彼女は、きつく拳を握りしめて。 首を横に振る。 濡れた髪が張り付いた、白い項に思わず見惚れた。 「沖田さん、が……」 掠れた涙声が僕の名を口にする。 視線が絡み合った。 「沖田さんが、戻るなら……戻ります。でも、沖田さんが残るなら、私もここにいます」 濡れた瞳で、弱いくせに必死に前を見ようとする、強い眼差しで。 そんな目で僕を見ないで。 思った時には、抱きしめていた。 お互いずぶ濡れで、冷たくて。 でも、抱きしめた体は小さいけど温かかった。 何も言えなかった。 恐る恐る伸ばされた手が、背中に縋って。 その感触さえ、愛おしくて壊したくて、堪らなかった。 「大丈夫です。……沖田さんは、一人じゃありません」 どうして君は、そんなに僕を甘やかしてしまうのかな。 もう、この手を離せない。