欲しかったのは、億万長者みたいな贅沢な生活じゃない。

欲しかったのは、ただ、大切な奴らが幸せになることを願える世界。
それだけだった。

はずだった、のに。

「恋愛は人を欲深くする。って言うけどさ」

自嘲気味に笑ったけれど、それもどこか引きつった。
会いたい、会いたい、会いたい、会えない。
その時間の長さに、時々、狂ってしまいたくなった。
それくらい、会いたくて堪らない。

異なる世界に生きることを選んだ、たった一人愛した女。
地上の為に、絶対諦めなかった。強くて非力な少女。

「……もう、忘れられちまったかな」

そんなはずがない。自信がある。
けれど、それと同じくらいの不安もある。

出会って、惹かれ合うまでが短かった分。
合わない時間、会えない距離に不安が募る。
たとえば、他の男に口説かれてるんじゃないか、とか。
自分に見切りを付けてしまっていないか、とか。
呆れるほど下らない不安が、冗談じゃなく堪えるのだ。


「あーあ。早く会いに行きたいな」

会って、抱きしめて、口付けて。
想いを伝えれば、きっとこんな不安もかき消してしまえるのに。


望んだ世界を手に入れた上、惚れた女にいつでも会いたい、なんて。


さすがに贅沢すぎるだろうか。