お前、彼氏いないだろ?
「お前みたいな女を選ぶ物好き、そういないだろうからな」
言い放った俺に、花は即座に反論とも呼べない叫びでも上げるかと思ったが。
やけに静かで、視線を向けた。
俯いてる所為で表情は伺えないが、細い肩が震えている。
内心、焦った。泣かせたくて言ったわけじゃ、ない。
「よ……けいな、余計なお世話よ! どうせ私なんて可愛くないし色気ないし特技ないし、
男の子と付き合った事だってないわよ!! でも、そんなの仲謀には関係ないじゃない!!」
泣いたかと思ったのに、焦って損した。そう、言おうとして。気付いた。
部屋を飛び出したあいつの頬を、雫が伝い落ちたことに。
「……またやっちまった」
上手く、優しくなんてしてやれない。そんな自分が不甲斐ない。
花の事が気になって気になって仕方ないのは本当だ。
好きだし、大事だと思ってるのに。
「泣かせてどうすんだよ……くそっ」
俺を好きだと言って、元居た世界より俺を選んだあいつを。
誰より幸せにしてやると誓ったはずが。
久しぶりにゆっくり出来ると浮かれて、他愛もない思い出話をしていたのに。
どうしてこうなった。
後悔しても、放っておいても、花の機嫌が直るわけもなく。
何より、俺が後味悪いし気になって、明日の政務が滞りかねない。
「ったく……俺様にこれだけ何度も出向かせてるんだからな。厄介な女」
独り呟いた声が甘いような気がしたのは、きっと、いや確実に気のせいだ。
その後、
「仲謀は私の、こ、恋人だと思ってたのに」
「……お前を選ぶ男は、俺だけでいいって思ったんだよ」
という毎度の会話に赤面する二人の姿を目撃したとの証言が、複数の臣下から寄せられた。
突発的に回廊を通行止めして二人の世界を作らないで下さいとの嘆願と共に。