友情の有効期限

強引に繋いだ手は、思っていたより小さかった。
それも当然。
彼女はまだ若い、年頃の少女なのだから。

京劇を見て、屋台で買った焼き菓子を分け合って食べて。
まるで、ごく普通の少女たちがそうするように街を歩いた。

「ありがとう、蘭花」
「え?」

唐突に礼を言われて、意味がわかるはずがない。
驚いた蘭花に、玄奘はほんの少しの憂いを瞳に滲ませ、それでも嬉しそうに微笑んだ。

「私、今まで同年代の友人がいなかったので……こんな風に、女同士で街を歩いたこともなかったんです」

それは想像に難くない。
寺院で育てられた生真面目な少女は、手伝いを優先して、自分のための時間も贅沢も、自制してきたのだろう。
お洒落にも恋愛事にも興味がないのでは、同年代の少女と話も合わない。

「だから……今日は、とても楽しかったです。一時だけでも、あなたを友人と思わせてもらえました。本当に、ありがとうございます」

ああ、なんて純真なのか。

「アンタって、本当に甘いわね」
「そうかも知れません。でも、今日はお休みなのですから……敵をお休みしてくれたのでしょう?」

真っ直ぐで、でも、どこか悪戯っぽさの見える笑み。
可愛らしくて困る。

「そうね。お休みの今日だけは、アンタの友達だった……ってコトにしてあげるわ」
「ありがとう」
「でも」

喜色を浮かべた玄奘に、蘭花は言葉を重ねる。
これ以上、互いが近づき過ぎないように。

「結局アタシとアンタは敵同士だって事実は、変わらないのよ。友情なんて絆、求めちゃダメ」

期待すれば、するほどに。
叶わなかった時に辛くなるものだから。

「それじゃ、またね。今度はアンタを捕まえに来るわ。覚悟してらっしゃい」

返事は聞かずに踵を返した。



そして、再会した時にはちゃんと警戒してくれたけれど。
やっぱり玄奘は変わらず甘いままだった。

肩に感じる体温と、無防備な寝顔。
蘭花でいてさえ心が騒ぐ。


「友情なんて、儚いものなのよ」

優しい仕草で髪を撫で、頬にそっと口付けた。

ごめんな、玄奘。
オレはもう、あんたを女と意識しているよ。

だから。
友情なんて、とっくに有効期限切れ。