「愛してる? 冗談言わないでよ」

きりりと眦を吊り上げて、心底不機嫌に言い放つ秀麗に、清雅は満足げに笑った。

「お前、やっぱり馬鹿だな」

見下すように尊大な態度が癪に障るが、あまりに似合う。
端正な顔立ちを嫌味と皮肉と過剰な自信で魅力的に彩る清雅に、見とれたなんてことは断じてない。
秀麗は、ほんの一瞬の沈黙を嘆息で誤魔化した。

「そうね。そうよね。言い間違えたわ。冗談でも、言わないで」

乱暴に机案を叩いた秀麗の、苛烈な瞳に笑みが深まる。
清雅は椅子から立ち、秀麗に覆い被さるように顔を寄せた。

「本気なら、言っていいんだな」
「え」

警戒していたのに、虚を突かれて反応が遅れた。
唇を掠めた温もり。
清雅の瞳が、真っ直ぐに秀麗を射抜く。

「……ほん、き?」

呆然と呟いた秀麗に、室を出ようとしていた清雅が振り向いた。
その顔に浮かぶのは、いつもの、性質の悪い傲岸な微笑。

「まったく、学習能力ないのか? 本気なわけないだろ」
「な、ちょ、ふざけんじゃないわよーっ!!」

一拍置いて、烈火の如く怒り出した秀麗を残して戸を閉める。
ガン、ゴン、と戸に何かを投げつける音と、秀麗の叫びを聞きながら、不意に笑みが消えた。


冗談にでもしなきゃ、言えないくらい、愛してる。