それは未来に似て

どこまでも続く果てしない。
それはまるで未来に似て。

 ざああ
細長い草を波のように揺らして、風が吹きぬける。 膝下を擽るその感触に、私は笑った。 思い切り見上げる、景色は一面の青。 悠々と、あるいは浚われるように。 流れる無数の白い雲。 不意に腕を引かれて座り込んだ。
「カイ」
無様に尻餅つかずに済んでよかった。 私は、腕を引いた張本人を睨む。
「受け止めてやるから安心しろって」
笑いながら、草の上に寝転んだ男。 黒い髪、黒い瞳。黄色の肌に無数の傷痕。 私を殺すはずだった男。 そして、私の運命を変えた男。
「お前も寝てみろよ」
子供のような笑みで、カイは誘う。 初めて見たときよりもずっと幼い印象。 誘われるまま、恐々と草の上に身を預けた。 濃い、緑の匂い。
 ざああ
吹き過ぎる風の音。 その向こうに広がる青。 揺蕩い、あるいは泳いでゆく白い雲。 目の前の景色は、初めて見るものだった。
「運命なんて考えるのも馬鹿らしいだろ」
唐突な言葉。 横を見ると、射抜くほど真っ直ぐなカイの瞳。 その顔に浮かぶのは、確信の笑み。 つられて、私も微笑んだ。 視線を、再び空へ向ける。
「……うん」
頷くと、カイが声を上げて笑った。 この青い空に相応しい、抜けるように朗らかな。
 ざああ
風が吹き抜ける。 あるがままに。 抗うようにも、流されるようにも見える雲。
どこまでも続く、果てしない空。 それはまるで未来にも似て。 私の本すら小さなものだと、思い知る。