アカシックレコード

それには全てが記されている。
人が運命と名付ける全てが。
未来すらも、そこに既に記されている。
故に、それを見る事の出来る者は、即ち全能と称される。

 ぱらり
くだらない。 私はそう呟いた。
「……くだらない」
全能だとして、それが何だと言うのか。 私は全てを知る事が出来る。 だから全てを諦めている。 知らないという事は、私にとって憧れであり幸福だ。
 ぱらり
見えない本のページを捲る。 それが私のイメージ。
 ぱらり
賑やかな足音が聞こえてくる。 勢いよく開かれる扉。知らない男。
 ぱらり
男の名はカイ。年は十八。 黒い髪に黒い瞳。黄色の肌にはいくつかの古い傷痕。 未来予知を売る私とこの組織を壊す者。 私を殺しに来た男。
 ばたん
乱暴に開かれた扉。カイと言う名の男。 黄色の肌に、いつくもの古い傷と新しい傷。 伸び放題の長く乱れた黒い髪。 黒い瞳は強く煌いている。 握られた剣から、赤い雫が零れ落ちた。
 ぱらり
私は何も言わずに剣が振り下ろされるのを待つ。 焼け付くような痛みは一瞬。 そして私の物語は終わる。

はずだった。
 アカシックレコード
「 運 命 は 変わらない」
小さな呟き。

 ぱたん
閉じて、
 ぱらり
開く。

男は剣を鞘に収めた。 差し伸べられた傷だらけの腕。
「俺が書き換えてやる」
強い意志。不敵な笑み。 この男ならば出来るのかも知れない。 私が出来ないこと。 運命に抗う事。 知らないからこそ言えること。
 ぱらり
私は手を伸ばした。
 ぱらり
そして瞼と、本を閉じた。


 ぱたん