月見酒

いつの間にか暗くなった窓の外。
中天にかかる円になりかけの月。
雲も疎らな空で、空気が透き通るみたい。
こんな時は風情に浸りたくなる。

窓を開けて、月を肴にお酒を飲もう。

「かんぱい」
今日は一人。 独り言。 ちょっと違った。 話し相手は、お月さま。
「きれいだねぇ」
月を見上げて。 ちびりちびりと舐めるみたいに。 日本酒は冷にかぎる。 なんて、オヤジっぽいかな。 でも、そう思うんだもの。
「そう思わない?」
そんなこと言われても知らないよ。 月だもんね。 お酒なんて飲まないし。
「…静かだねぇ」
虫の音が、微かに聞こえるだけ。 風情溢れる。 そんな雰囲気。 浸りたくなる時もある。 たまにはね。
「たまにはいいよね?」
見上げた月は、やっぱり何も言わないけれど。 柔らかな銀色の光は、なんでも許してくれそうだから。
「いいよね」

一人で飲むのも悪くない。 賑やかなのは好きだけど。 秋の夜長なんだから。
月見酒。
こんな楽しみも、いいと思う。