「夢見る5月」

新しい制服にも、ようやく馴染んだ。
ちょっとカッコいい先輩を見つけた。
新しく仲良しの友達も出来た。
そろそろ部活も決めようと思う。

「でもね? これだけは、ちっとも慣れないの。だから」
「ダメ。自分でやんなさい」
「おにいのけちー」
「意味わかんないよ」

くすくす笑う、年の離れたお兄ちゃん。
膝枕してもらいながら話す私は、宿題のプリントを途方に暮れた顔で眺める。
しょうがないな、って表情でぺちんとおでこを叩かれた。

「いたっ」
「ぽけーっとした顔してたから、つい」
「ひどいよ。おにい」
「手伝ってあげようと思ったのに、そういうこと言うんだ?」

全然怒ってない顔と声で、冗談っぽく言うから。
私も冗談っぽく返す。

「あ、ごめんなさい。お兄ちゃんさま、どうか手伝ってくださいー」
「そこまで言うなら、特別に手伝ってあげましょう」
「ありがと、お兄ちゃん。後でお礼にマッサージするよー!」
「されとくよ」

起き上がってテーブルに向かう私と、優しく笑うお兄ちゃん。
先輩なんかより、何倍も何十倍もカッコいいお兄ちゃん。

ホントはね……


「邪魔」

ごつっと蹴られてテーブルにおでこをぶつけた。痛い。
拗ねた顔で振り向くと。

「……おにい、帰ってたんだ」
「おかえりくらい言えよ。ったく、のん気だよな。学生は」

ものすっごく不機嫌そうなお兄ちゃん。
ネクタイを緩める仕草がカッコいいのは事実だけど。

「……何ぼけーっと見てんだよ。気持ちわりぃ」

ちっとも優しくない。ろくでもない。嬉しくない。
こんな現実ノーサンキューだ。

「なんでもない。ご飯レンジ。私もう寝る」
「あっそ。ガキはさっさと寝ろ寝ろ」

厄介払いみたいに手で追い払われて、私はがっくり肩を落とした。
あと1時間で日付が変わる。



せめて、もう少しだけいい夢見せてよ。五月の名残。