「ごくありふれた謎のある日常」

作:あやどりみつき 2019/08/03
台詞数 佐竹:12 吾妻:13

佐竹陽子(さたけはるこ)
18歳、女、文芸部部長。
探偵に憧れる好奇心旺盛で空回りの多い少女。

吾妻孝史(あずまたかふみ)
16歳、男、文芸部新入部員。
インドア派で特に強い拘りも情熱もない少年。



佐竹「世界は少し退屈過ぎるわ。そう思わない? 吾妻くん」
吾妻「……またですか、佐竹先輩」
佐竹「だって、事実は小説より奇なり、なんて言うけれど私の周りにそんな素敵な事件は起きてくれないんだもの!」
吾妻「そうですね。そうそう、ごく一般的な高校生の前に事件なんて起きてもらっちゃ困ります」
佐竹「それじゃあ張り合いがなさすぎるのよ!私はもっと刺激的な事件を、いいえ、人生を求めてるの!」
吾妻「先輩の言う刺激的な人生ってのは、
   旅先で殺人事件に遭遇し、見事犯人を推理して一躍高校生名探偵の名を欲しいままにするとか、
   そういういつものやつですか?」
佐竹「さすがの私も、いつまでもそんな事は言わないわ。
   だけど……世の中って、こんなにも謎とは無縁なものなのかしら。少し、味気ないと思うの」
吾妻「それは……先輩のものの見方にも因るんじゃないですか?」
佐竹「どういう意味?」
吾妻「深い意味はありませんよ。
   そのまま、一方向からだけ見れば、見落としてしまうこともあるんじゃないかって、そういう話です」
佐竹「見方ひとつで世界に謎は満ちている、とでも言うつもり?」
吾妻「……まあ、そういうことですね。
   例えば、俺の家には猫がいますが、こいつは頻繁に家を抜け出しています。
   いつの間に、何処から抜け出しているのか、外で何をしているのか。
   そういう些細なことだって、考えようと思えば、十分推理の余地がありますよ」
佐竹「推理って……そんなの尾行すればわかることじゃない」
吾妻「先輩、聞いてました?いつの間に、って言ったでしょう。いつ抜け出しているのか、誰も見ていないんですよ」
佐竹「じゃあ何で、抜け出しているってわかるの?」
吾妻「普通、室内で飼っている猫の足に土や砂が付着していることは、ありませんよね」
佐竹「うーん。で、でもそれじゃあ家の人が連れ出してるだけかも知れないじゃない」
吾妻「少なくとも俺の家族は、猫を散歩に連れて行く習慣はありません。直接確認もとれています。
   第一、ペットを外出させる場合、ケージを利用するのが一般的です」
佐竹「じゃあじゃあ、戸締りが甘かったとか」
吾妻「毎回ですか?少なくとも、うちはそこまで防犯意識低くないです」
佐竹「……じゃあ、えーっと」
吾妻「他には何が考えられますか? 佐竹名探偵先輩」
佐竹「ぐ、ぐぬぬ。ちょっと待ちなさいよ?えっと、えーっと」

吾妻「先輩には、しばらく悩んでいてもらおう。これで俺の静かな読書時間が確保できる。」
吾妻「答え合わせは……まあ、先輩がギブアップしたら、話してみてもいいだろう」

SPOON【声劇】ごくありふれた謎のある日常 吾妻:ずや 佐竹:あやどりみつき