「英雄王と側近」

作:あやどりみつき 2018/12/13
側近:10 王:10

側近「お待ちください。お待ちください、我が王よ!」
 王「……なんだ? 時間がない、手短に申せ」
側近「王よ、どちらへ向かわれるおつもりか」
 王「知れたこと。前線に出る。余がいることで士気も上がろう」
側近「なりません! 我らが王よ、高貴なる御身がもしも前線で敵の手に落ちれば、国はどうなります?
   民は? 兵の代わりはいくらでもおりましょう!」
 王「戯けたことを申すな! 兵を、民を食い潰して玉座を温めるだけの王に、なんの価値があろうか!」
側近「貴方様さえご存命ならば、国は再起出来ましょう。御旗のない烏合の衆にこそ、価値などありますまい」
 王「……だが、戦況は悪化する一方ではないか」
側近「募兵を行い、次の援軍の準備を進めております」
 王「同じことだ! 敗色濃厚な前線に後手後手で兵を送ったところで、食い尽くされる未来しか、見えぬ」
側近「……それは……」
 王「余が行くことで、僅かなりとも勝機が見えるやも知れぬ。黙って座して、緩やかな滅びを待つくらいならば、行かせてくれ!」
側近「なりません! お気持ちは重々承知しております、しかし」
 王「行かせてくれ!! かつて国を興した英雄王が、今は見る影もない。そう囁かれているのを聞いた。
   余は、玉座惜しさに戦場を離れた臆病者と謗られるのは、悔しいのだ……」
側近「我が王……」
 王「許せ。お前には王宮に残ってもらわねばならぬ」
側近「生きて、必ずお戻りください」
 王「無論だ! 英雄王は健在であったと、敵軍を慄かせてやろうとも」
側近「ご武運を」
 王「………ありがとう。出陣する!」