「箱庭の魔女と囲われた王子様」

作:あやどりみつき 2018/12/02
魔女:5 王子:5



魔女「かわいい、愛しい私の貴方。貴方の為なら何でもしてあげる。
   口煩い執事を消して、厳しいお父様を消して、わずらわしい許嫁を消して。
   そうして国を背負う重荷から貴方をこうして救ってあげたわ。
   ……なのに、ねぇ。何故かしら? 貴方の瞳が晴れないのは。」

王子「優しい魔女。僕だけを想ってくれているのはわかる。
   けれど、どうして伝わらないのか? 僕の願いはこんなことでは無かったと。」

魔女「貴方の願いを叶えてきたわ。私は全て、貴方の為に、貴方の声だけを聞いていたのよ?」

王子「違うんだ。違うんだよ、魔女。僕は誰も消えて欲しいなどと願った事はない。
   幼い頃から面倒を見てくれた執事のお小言が煩いと、言ってしまったかも知れないけれど。
   尊敬する父上が厳しいと、零してしまったかも知れないけれど。失いたくなど、なかったのに!」

魔女「どうして? どうしてそんな綺麗事を言うの? 貴方は弱くていいの。誇り高くなくていいの。
   だって私が守ってあげるわ? この世界の全てから、私の箱庭の中で。
   大切にしてあげる。私が幸せにしてあげるのよ?」

王子「……それでは僕は、僕を認められない。そんな生き方を選ぶ僕を、僕は許せない。
   だから、魔女。願いを叶えてくれると言うなら……僕を国に帰らせてくれ。」

魔女「嗚呼、嗚呼。嘘、嘘でしょう? 嘘よね? 私のかわいい、愛しい貴方。
   そんな願いは聞けないわ。貴方が苦しむ未来が見えるのに、叶えるわけにはいかないのよ。」

王子「それでも魔女よ。僕は願う。あの国に生まれ、育ち、いつか王になるのだと幼い頃に誓ったのだ。
   そうして魔女よ。お前の居場所をあの国に作ってやるのだと、お前と出会ったあの日に誓ったのだ。
   僕をここから出してくれ!」

魔女「嫌、嫌よ。貴方は此処を出ていけば、二度と私の元へなど訪ってはくれないわ。貴方を失いたくないの!」

王子「信じてくれ! 僕は必ず魔女よ。僕を愛するお前を迎えにやって来る。
   必ず、お前の居場所をこんな小さな箱庭の外に作ってみせる! どうか信じて、待っていてくれ。」