下弦の月

翡翠のさざめき
秋風のさえずり
鈴虫のささやき

遠い薄青の空 西の果てから 藍色の帳がせまり来る
茜色に染まる間もなく 東の果てから 白い下弦の月が訪れる

翡翠は暗緑に沈み 秋風は夏を攫い 鈴虫は一夜を歌う

恋は目覚めを知らず 夢は夜明けを待ち 夜は静かに深まる


重い藍色の空 中天に浮かぶ 白い下弦の月が一人
暁までの泡沫の闇 天空を泳ぎ 菫色の岸へたどり着く


 やがて
翡翠は輝きを取り戻し 秋風は優しくそよぎ 鈴虫は眠りを思い出す

 けれど
恋は目覚めを忘れ 夢は夜明けを恐れ 夜は瞼の奥へと消える